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仙台地方裁判所 昭和53年(ヨ)779号 決定 1979年4月23日

債権者 広沢一雄

債務者 日本電信電話公社

代理人 山田巖 藤田秀次郎 橘内剛造 ほか五名

主文

一  債権者の仮処分申請を却下する。

二  申請費用は債権者の負担とする。

理由

第一当事者の申立と主張

一  債権者の申請の趣旨及び理由は別紙(一)記載のとおりである。

二  債務者の答弁は別紙(二)記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  債権者の入社、休職等について

債権者は債務者に勤務する労働者であるが、昭和四六年一一月一九日東京都千代田区日比谷野外音楽堂で開催された沖繩返還協定反対の集会に参加した帰り、警察機動隊に逮捕され、同年一二月一一日東京地方裁判所に兇器準備集合罪、公務執行妨害罪で起訴され、同日付で債務者から刑事起訴休職処分を受けたこと、及び債権者が昭和五一年七月一五日右地方裁判所で右罪につき懲役一年二月、執行猶予二年の判決を受け、直ちに控訴したこと、並びに債務者が昭和五一年八月一八日付をもつて債権者に対し、同人が日本電信電話公社職員就業規則(以下、規則という)第五九条第七号に該当する行為を行つたことを理由として、同人を懲戒免職とする旨通知したことは、当事者間に争いがない。

二  本件懲戒免職処分の理由について

疎明資料によれば、債務者が債権者に対し、本件懲戒免職処分に際し、申請の理由に対する答弁三記載内容の懲戒免職辞令書を交付したが、本件懲戒免職処分の理由とされた非行とは、債権者が逮捕され、あるいは有罪判決を受けたことそれ自体でなく、右有罪判決により認定されたと同一の、債権者の兇器準備集合罪、公務執行妨害罪各該当行為そのものであつたことが認められる。

三  本件懲戒免職処分の理由とされた非行の存否について

1  当事者間に争いのない事実及び疎明資料によれば、次の事実が認められる。

即ち、(1)昭和四六年六月一七日に日米両国間で「琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」等(以下、沖繩返還協定等という)を調印したことから、いわゆる沖繩返還協定等の批准に反対する沖繩返還協定批准阻止闘争が始まり、同年一一月に入るとともにその闘争手段も一段とエスカレートし、一部に火炎ビン、鉄パイプ爆弾等を使用し、警備の警察官や警察署を襲い建物の放火未遂や人の殺傷までに至る過激な行動に出るに及んで、世情不安をかきたてるに至つた。(2)そのような折の、同年一一月一九日午後六時三〇分ころから、日比谷野外音楽堂において、中核派を含む集団が右批准阻止闘争の集会を開き、午後七時過ぎにこれを終えたが、そのうちの中核派等を中心とする集団及びこれに同調する者が禁止されていたデモに出ようとして警備規制にあたつていた機動隊と衝突を繰り返し、そのうちにその集団の中からかねて用意の火炎ビンや石塊等を投げたり、公園内のレストラン「松本楼」に乱入、放火し全焼させる等の行動に及び周辺地域を非常な混乱状態に陥れた。(3)ところで、債権者は、昭和四六年一一月一九日の右集会に参加した後、引き続き日比谷公園内における機動隊に対する攻撃事件に参加し、その際、同日午後七時三〇分ころから同八時四二分ころまでの間、多数の学生、労働者らが警備中の警察官に対し、共同して危害を加える目的をもつて兇器である多数の竹竿、丸太、石塊を所持集合して、日比谷公園内の野外音楽堂から日比谷門に至る道路上及びその周辺に集合移動した際自らもまた石塊若干を所持して右集団に加わり、さらに右多数の学生、労働者と共謀のうえ、同日午後七時四〇分ころから同八時四二分ころまでの間、右日比谷門付近道路上において、学生及び労働者らの違法行為を制止、検挙等の任務に従事していた警視庁所属の警察官に対し、多数の石塊、コンクリート塊等を投げつけ、竹竿で突くなどの暴行を加えて、その職務を妨害する等の行為をした。(4)債権者は、昭和四六年一一月一九日午後九時二一分過ぎころ、日比谷公園内で、右の嫌疑で逮捕、勾留された後右兇器準備集合及び公務執行妨害の各罪で東京地方裁判所に起訴され、同裁判所において昭和五一年七月一五日に右起訴事実全部について前掲の有罪判決を受けた。(5)右第一審判決は、その後、債権者が順次控訴上告の手続をとつたものの、昭和五二年一二月二六日東京高等裁判所で控訴棄却の判決がなされ、次いで昭和五四年三月二〇日最高裁判所で上告棄却の決定が言渡されて、確定した。

疎明資料によれば、債務者は、規則第六〇条において懲戒処分として、免職、停職、減給、戒告を規定し、規則第五九条において懲戒事由の一つとして、「職員としての品位を傷つけ、または信用を失うような非行があつたとき(第七号)」と規定していることが認められる。

ところで、債務者は、公衆電気通信事業の合理的かつ能率的な経営の体制を確立し、公衆電気通信設備の整備及び拡充を促進し、並びに電気通信による国民の利便を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的として設立された企業として(日本電信電話公社法第一条)、高度の公共性を有する公法上の法人であつて、その廉潔性の保持が社会から要請されていることを考慮すると、債権者が前認定のような反社会性の著しい犯罪行為を敢てなしたことは、それが債務者の企業外の私行であつたとしても、債権者が債務者の職員としての品位を傷つけ、信用を失つたものと認めることができる(従つて、起訴事実は債務者の業務内容と全くかかわりのない企業外の私行であり、しかも破廉恥犯ではないから、品位を傷つけたり信用を失墜させるようなものにあたらないとの、債権者の主張は採用できない。)。

2  ところで、債権者は、規則第五九条第一六号及び第五二条第二項に照らし、規則第五九条第七号にいう「非行」には「刑事事件」を含まないと主張する。

しかしながら、規則第五九条第一六号は、刑事事件に関して有罪の確定判決がなされたこと自体を、非行の存在とは別の独立した懲戒事由としてとりあげたものであることその規定上明白であり、他方、規則上は第五九条第七号の非行中から刑事事件(即ち、刑事事件として現に係属し、又は係属した行為ないし刑事事件に該当する行為)を除外する旨の定めは存在しない。なお、規則第五二条は休職に関する規定であつて、懲戒とは直接の関係がない。従つて、規則第五九条第七号の非行には刑事事件をも含むものと解すべきこととなる。

よつて、債権者の右主張は採用できない。

3  また、債権者は、規則第五九条第七号は債務者の名誉・信用を象徴するような地位にある管理者ないしこれに準ずる者にのみ適用されるものであつて、単に機械的肉体的労務を提供するにすぎない債権者に適用することはできないと主張する。

しかしながら、規則上、第五九条第七号の対象者を債権者主張のように限定する明文の定めは存在しない。ところで、疎明資料によれば、債務者は、右第七号の非行であつてもそれに応じてなす懲戒処分としては免職、停職、減給、戒告の選択が可能であり、その幅が著しいことが認められる。そうすると、同じ非行であつても、どの懲戒処分を選択するのが妥当であるかの判断にあたつては、その対象者が管理者ないしこれに準ずる者か、単なる機械的肉体的労務を提供するにすぎない職員かによつて、そこにおのずと差をもうけることを是認できるとしても、右非行事実該当そのものの判断に際して、債権者主張のような限定的考えをとるのは妥当でなく、従つて、債権者の右主張は採用できない。

4  よつて、債権者の前認定の行為は規則第五九条第七号に該当するものといわなければならない。

四  本件懲戒免職処分の効力について

1  本件懲戒免職処分が右認定の非行を理由としてなされたことは、すでに認定したところである。

2  ところで、債権者は、刑事事件が裁判所に係属している間は、債務者においてその刑事事件につき独自の非行事実の認定をして処分することはできないと主張する。

しかしながら、規則第五九条の懲戒事由をみると、刑事事件が裁判所に係属していると否とにかかわらず、同条第七号の懲戒事由があるときに懲戒できることその明文上明らかである。従つて、債権者の右主張は採用できない。

3  次で、債権者は、同人が起訴されたことにより債務者から刑事休職に付されたものであつて、債務者の主張する信用失墜等は右刑事休職により消滅しているものであるから、その後、新たな品位を傷つけ信用を失う事態が発生していない現在、有罪の確定判決があつたとき始めて懲戒すべきものであつて、これに反してなした本件懲戒免職処分は懲戒権の濫用であると主張する。

日本電信電話公社法第三二条第一項及び規則第五二条第一項によれば、職員が刑事事件に関して起訴されたときその意に反して休職させることのあることが認められるところである。ところで、このような休職は、職員が刑事事件に関して起訴されたこと(これは起訴の対象となつた行為そのものとは別の事実である)により当該職員に就労を継続させることが不適当であると認めた場合であつても右事情の発生につき労働者に責があるか否か、ないしはどれ位の刑事責任を負わなければならないか等が不明のまま、直ちに職員を解雇するのを適当としない場合に、当該職員を一時的に当該職場から排除するためにとられる暫定的措置であつて、起訴の対象となつた行為そのものの責任を追及するものではない。

他方、右公社法第三三条に規定され、総裁が行うこととされている懲戒処分は職員の非違行為そのものの責任を問うことを本旨とするものであり、そのうち免職処分はその手段として該職員を債務者から確定的に排除するものである。

以上のように、職員に対する起訴休職処分と、起訴の対象となつた行為そのものによる懲戒免職処分とは、その目的、事由、効果すべての点で異なるものといわざるを得ず、また刑事休職処分がなされたことで、その対象となつた行為そのものによつてもたらされた職員としての品位を傷つけ、信用を失つた結果が消滅ないし回復されるものでもない。両者は別のものである。従つて、起訴休職中の職員を当該起訴の対象となつた行為が懲戒事由に該当することの故に懲戒免職処分に付することは右公社法上何ら妨げのないものであり、それが同一の事由による職員への二重の不利益を課することになるものでもなく、その処分刑事事件の確定判決がなされるまで留保しなければならないものでもない。

そして、疎明資料によれば、債務者は、債権者が前認定の行為で逮捕されて以来、その情報の収集に努め、昭和五一年七月一五日に東京地方裁判所において右行為につき有罪の判決がなされるに至つて、その行為の存在を確信し、かつ、当該行為が規則第五九条第七号に該当すると判断して本件懲戒免職処分をなしたこと、及び債権者は、昭和四一年四月一日に債務者に見習社員として雇用され、同年八月一日に社員に採用された後、昭和四二年八月一日からは仙台中央電報局運用部第一通信課勤務となり、以来仙台中央電報局の主幹業務である電報中断交換装置の運用並びに電報の送受信業務に従事してきたことが認められる。また、右第一審裁判所の有罪判決は、その後、そのとおりの内容で確定したことはすでに認定したとおりである。これら、債権者の職場内の地位、非行内容、刑の内容及び債務者の右非行事実の認定自体が正しかつたことに照らすと、本件懲戒免職処分が社会通念上、著しく妥当を欠き裁量権を濫用したとは認められない。

よつて、債権者の右主張は採用できない。

4  また、債権者は、債権者が本件懲戒免職処分時、第一審有罪判決のみに依拠し、他に何らの事実調査もせずに債権者の非行を認定したことは、軽卒以外の何ものでもなく、非行を認定する根拠なしになされた処分として、違法・無効と主張する。

しかしながら、債務者がいかなる資料によつて債権者の本件非行を認定したかは、その資料収集に違法性がない限り、本件懲戒免職処分の効力を判断するのに重要でなく、むしろ、いかなる資料によつたにしろ、その認定された非行が真実存在し、かつ、その処分の妥当性があつたか否かこそが本件懲戒免職処分の効力を判断するのに重要なものである。

ところで、本件懲戒免職処分の理由となつた債権者の非行について、債権者が懲役一年二月、執行猶予二年の有罪判決を受け、その後、右有罪判決は確定したこと、すでに認定したところであるから、結局のところ、債務者の右非行認定は正しかつたことが裏付けられた結果となつたものであつて、債務者の本件懲戒免職処分に違法、無効な点はない。

従つて、債権者の右主張は採用できない。

5  なお、債権者は、債務者が昭和四六年一二月一一日の債権者に対する東京地方裁判所の有罪判決の存在それ自体を理由として本件懲戒免職処分が行われたと主張するが、債務者は、右判決の対象となつた非行事実そのものをとらえて本件懲戒免職処分を行つたものであつたことは、すでに認定したところである。従つて右の点についての債権者の主張は失当である。

6  以上のとおりであるから、本件懲戒免職処分は有効と認められる。

五  結論

よつて、債権者の本件申請は、その余につき判断するまでもなく、被保全権利について疎明がないことになり、保証を立てさせて疎明にかえることは相当でないから、本件申請を失当として却下することとし、申請費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 石川良雄 畑瀬信行 藤村眞知子)

別紙一

申請の趣旨

一 債務者が債権者に対しなした、昭和五一年八月一八日付懲戒免職の意思表示の効力はこれを停止する。

二 債務者は債権者に対し、金五万七、三六〇円とこれに対する昭和五三年一二月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三 債務者は債権者に対し、昭和五四年一月以降毎月二〇日限り各月金五万七、三六〇円を支払え。

との裁判を求める。

申請の理由

一 債権者は債務者に勤務する労働者であるが、昭和四六年一一月一九日東京都千代田区日比谷野外音楽堂で開催された沖繩返還協定反対の集会に参加した帰り、警察機動隊の無差別逮捕によつて逮捕され、昭和四六年一二月一一日東京地方裁判所に凶器準備集合、公務執行妨害罪で起訴され、同日付で債務者から刑事起訴休職処分をうけ休職中だつたものである。

二 同事件については、昭和五一年七月一五日懲役一年二月、執行猶予二年の判決があつたが、債権者は直ちにこの判決につき控訴し、現在同事件は東京高等裁判所に係属している。

三 ところが、債務者は昭和五一年八月一八日付をもつて債権者を懲戒免職にすると通知してきた。

その理由は、債権者が昭和五一年七月一五日東京地方裁判所において、前記事件により懲役一年二月、執行猶予二年の判決をうけたことは、日本電信電話公社職員就業規則(以下規則という)第五九条第七号「職員としての品位を傷つけ、又は信用を失なうような非行があつたとき」に該当するというものである。

四 しかしながら、右免職処分は次の理由により無効なものである。

右規則第五九条は「職員は次の各号の一に該当する場合は、別に定めるところにより懲戒されることがある」とし、第七号は「職員としての品位を傷つけ、又は信用を失なうような非行があつたとき」と規定している。

しかし、同規則にはまた同条第一六号に「刑事事件に関し有罪の確定判決があつたとき」との規定があり、更に債権者の休職の根拠となつた同規則五二条三項には「第一項第二号の規定による休職(すなわち刑事起訴休職)の期間は、その事件が裁判所に係属する間とする」との規定があるほか、債務者と債務者に所属する労働者で組織する全国電気通信労働組合との間で結ばれた休職の発令時期等に関する協約(以下協約という)第三条二項にも同様の規定が存するのである。

以上の規則、協約をみれば、規則五九条七号にいう「非行」には「刑事事件」は含まれず、そうでないとしても「刑事事件」が裁判所に係属している間は、債務者においてその「刑事事件」につき独自に「非行」事実の認定を行なつて処分することができないと言わなければならない。

五 のみならず、以下の点からも処分は無効である。

(イ) 右処分は債権者兇準、公妨により懲役一年二月、執行猶予二年の第一審の判決を受けたことを理由としているが、債権者は無罪を主張して控訴しており、判決は確定していない。債権者は第一審判決を受けたとはいえ、有罪判決の確定に至るまでは無罪の推定を受けるものである。そうして無罪推定の原則は確かに第一義的には、刑事訴訟手続における規範的要請であるが、他面その他の関係でも尊重されるべきことはいうまでもない。

従つて公訴事実について、被告人がこれを認めている場合であればともかく、無罪を主張している本件においては、かかる一審判決が出たことをもつて直ちに「職員としての品位を傷つけ、または信用を失なうような非行があつたとき」に該ると言えないことは明らかである。

(ロ) 債務者は判決を受けたこと自体ではなく、第一審判決の罪となるべき事実に相当する行為を債権者が行なつたことをもつて、本件懲戒免職処分の事由としたとも解されるが、債権者はかかる行為をしたことがなく、判決の確定もまたずに債務者が債権者に犯罪行為があつたと断定したのは、その資料もなく単に刑事裁判における有罪率の高さにのみ頼つたもので軽卒極まりないものであり、処分事由の有無の認定を誤つた違法なものと言わなければならない。

(ハ) 債務者は、本件処分時において、債権者の非行を認定するための何らの調査もしておらず、処分はその正当性を欠くものである。債務者は、第一審判決は厳格な証明手続を経てなされたから信用できると主張するかも知れないが、そのような第一審判決が誤つている可能性があるからこそ、現行法は三審制を採用しているのである。従つて、債務者がこの一審判決にのみ依拠して何らの事実調査もなさずに、債権者の非行を認定したことは、軽卒以外の何ものでもなく、非行を認定する根拠なしに為されたものとして違法・無効である(福岡地判昭和五〇年六月三〇日判例時報七九七―一四九参照)。

(ニ) また債権者は、現在起訴休職中であつて、現時点において懲戒解雇処分をすべき理由はなく、右処分は懲戒権の濫用というべきである。

すなわち、債権者が起訴されたことにより、債務者側がおそれる信用失墜や職場規律の乱れといつたものは、起訴休職により消滅しているのであり、刑事判決が確定するまでは「品位を傷つけ」「信用を失なう」といつた新たな事態は発生しないものである。無罪推定の原則は、刑事裁判の場のみではなく、他所においてもこれを尊重すべきことは前にも述べたところであるが、法、就業規則、協約等で起訴休職を定めているのは、かかる無罪推定を尊重するあまり、判決確定まで何もせずにおくことは労働関係において信用失墜等の不都合が生じるので、それを防止するためにあることは争いがない処であつて、であるならば、そのような刑事起訴休職規定の精神を無視して、何ら新たな「品位を傷つけ」「信用を失なう」事態が発生していない現在、有罪判決の確定に匹敵すべき慎重な事実調査もなしに、懲戒解雇処分をすることは明らかに懲戒権の濫用というべきである。

(ホ) さらに元来、債権者にかかる起訴事実自体「職員としての品位を傷つけ、または信用を失なうような非行」に該らないというべきである。

すなわち、

(1) 起訴事実は債務者の業務内容と全くかかわりのない、企業外の事件であり、しかも破廉恥犯ではないから、品位を傷つけたり信用を失墜させるようなものではない。

(2) 債務者の信用、品位を傷つけるような職員の職種・地位とは債務者の名誉・信用を象徴するような地位にある管理職ないしこれに準ずるものでなければならず、単に機械的肉体的労務の提供をするにすぎない債権者はこれにあたらない。

従つて、債権者には懲戒解雇される理由はなく、債務者の本件懲戒処分は無効である。

六 以上のとおり、債務者の懲戒免職の意思表示はいずれにせよ無効なものであるから、債権者は解雇無効の確認の訴を提起しているが、債権者は債務者からの給与によつて生活をたてていたものであり、解雇により右給与の支払いがない場合は、債権者の生活は成り立たない。

七 債権者の給与は、昭和五一年八月現在、休職中のため、月五万七、三六〇円であり、毎月二〇日が支給日である。昭和五一年八月から昭和五三年一一月分までは、御庁昭和五一年(ヨ)第四四六号仮処分決定に基づき債務者は債権者に支払いをしていた。

よつて本申請に及ぶ。

別紙(二)

第一申請の趣旨に対する答弁

本件申請をいずれも却下する。

申請費用は債権者の負担とする。

との裁判を求める。

第二申請の理由に対する答弁

一 第一項のうち、債権者に対する逮捕が無差別であるとの点は否認し、その余を認める。但し、債権者は、債務者の債権者に対する昭和五一年八月一八日付懲戒免職辞令書の交付により、同日債務者の職員たる地位を喪失したものである。

二 第二項の事実は認める。

なお、東京高等裁判所は、昭和五二年一二月二六日債権者の控訴を棄却する判決をし、債権者は、これを不服として上告し、同事件は現在最高裁判所に係属中である。

三 第三項については、懲戒免職の理由を除き認める。

懲戒免職辞令書記載の理由は、「昭和四六年一一月一九日東京都千代田区日比谷門附近の道路上において、多数の学生等とともに、警察官に対し、石塊、コンクリート塊等を投げつけ、竹竿で突く等の暴行を加えたため逮捕され、昭和五一年七月一五日兇器準備集合、公務執行妨害罪により懲役一年二月、執行猶予二年の判決を受けたことは、日本電信電話公社職員就業規則五九条七号に該当し、公社職員としてはなはだ不都合であるので上記のとおり処分する。」というものであり、本件懲戒免職の理由とされた非行とは、債権者が逮捕され、あるいは有罪判決を受けたことそれ自体ではなく、右有罪判決により認定されたと同一の、債権者の兇器準備集合罪、公務執行妨害罪各該当の債権者の行為であり、正確には、同判決摘示の罪となるべき事実すなわち「被告人は、いわゆる沖繩返還協定の批准に反対していたものであるが、昭和四六年一一月一九日東京都千代田区日比谷公園一番五号所在の日比谷公園野外音楽堂において開催された沖繩返還協定批准阻止等を目的とする集会が終了したのち、

(一) 多数の学生、労働者らが、同日午後七時三〇分ころから午後八時四二分ころまでの間、警備中の警察官に対し、共同して危害を加える目的をもつて、多数の竹竿、丸太、石塊、コンクリート塊等を所持して、前記日比谷公園の野外大音楽堂から同公園一番二号所在の日比谷門に至る間の道路上およびその周辺に集合移動した際被告人において石塊若干を所持して右集団に加わり、もつて右の目的で兇器を準備し、

(二) 多数の学生、労働者らと共謀のうえ、同日午後七時四〇分ころから午後八時四二分ころまでの間、前記日比谷門附近道路上において、学生、労働者らの違法行為を制止、検挙するなどの任務に従事していた警視庁所属の警察官に対し、多数の石塊等を投げつけ、竹竿で突くなどの暴行を加え、もつて右警察官の職務の執行を妨害した」行為がこれに該るものである。

四 第四項ないし第六項については争う。

五 第七項の事実は認める。

第三債務者の主張

債務者は本件申請の理由のないものであることにつき以下のとおり主張する。

一 債権者の職務歴

債権者は、昭和四一年三月、宮城県立気仙沼高等学校商業科を卒業、同年四月一日、債務者日本電信電話公社(以下「公社」と略称する)に見習社員として雇用され、仙台中央電報局運用部第二通信課勤務となつた後、昭和四一年八月一日社員に採用、昭和四二年八月一日からは同運用部第一通信課勤務となり、以来仙台中央電報局の主幹業務である電報中継交換装置の運用ならびに電報の送受信業務に従事してきたものであるが、昭和四六年一一月一九日後記「沖繩返還協定批准阻止闘争」に参加した際、兇器準備集合罪、公務執行妨害罪の各犯行容疑で現行犯逮捕され、同年一二月一一日「兇器準備集合罪、公務執行妨害罪」により東京地方検察庁より起訴されたため、同日付をもつて刑事休職処分に付されていたところ、昭和五一年七月一五日、東京地方裁判所は債権者に対し右起訴事実につき有罪判決言渡をなし債権者を懲役一年二月、二年間執行猶予に処した。そこで公社は、同年八月一八日付をもつて、債権者に対し、本件懲戒免職処分を発令したので、債権者は、爾来、公社職員としての身分を喪失したものである。

二 本件懲戒免職処分の理由

(一) 債権者の非行

(1) 債権者は、昭和四六年一一月一九日、日比谷野外音楽堂で開催された過激派集団による沖繩返還協定反対の集会に参加した後、引き続き日比谷公園内における警備中の機動隊に対する攻撃事件に参加し、前記内容の非行に及んだ。

(2) 右非行は規則第五九条第七号所定の「職員としての品位を傷つけ、または信用を失うような非行」に該当する。

三 本件懲戒免職処分の正当性

ところで債権者の犯した兇器準備集合罪並びに公務執行妨害罪各該当の所為は巷間瀕発する単純偶発的な暴行傷害事件等とは本質的に異なり、過激派集団による数数の集団暴動、暴力事犯と一連の関係に立つところのいわゆる日比谷暴動焼打事件の一環としてなされたものであり、暗に明にあらかじめなされた計画の下に兇器を準備した多数暴力集団の威力をもつて治安維持に当ろうとする警察機動隊と公然対峙してこれを粉砕撃破し、ひいては銀座周辺等を占拠しようとの目的の下に敢行されたものであつて、右行為自体極めて反社会的、反道徳的な犯罪であるのはもちろん、その動機、目的、態様、結果等その情状においても甚だ重いものといわなければならない。

債権者及びその共犯者の右犯行は当時の一般都民に少からぬ不安動揺を与えたばかりか、都民の憩の場であり、公共施設である日比谷公園を、騒乱の修羅場と化せしめ、由緒ある建築物を一瞬にして焼毀せしめる等してこれに多大の損害を及ぼしたばかりでなく、直ちに新聞、テレビ、ラジオ等により、全国に報道されて、広く世人のひんしゆくを買つたもので、かかる所為に参画した債権者の非行は著しく公社職員としての品位を傷つけ、信用を失わしめるものであるばかりか公社自体の信用を害し、一般公社職員の名誉を著しく傷つけ、さらには一部の債権者らに同調する職員に秩序軽視の念を誘起させるものであつて、公社秩序の維持の面においても悪影響を及ぼすこと少なからぬものがあるといわなければならない。

したがつて債権者の右非行が就業規則五九条七条、二〇号にいう「職員としての品位を傷つけ、または信用を失うような非行」に該当し、かつ「著しく不都合な行ない」に該当することは明白であり、右非行の重大性等諸般の事情を総合して債権者を本件懲戒免職処分に付したものであつて、本件処分の正当なることは明らかである。

四 刑事処分、刑事休職と懲戒処分の関係について

(一) 刑事処分と懲戒処分の関係について

懲戒処分は、本来公社の自立権として公社法上公社総裁ひいては東北電気通信局長に付与された権限であり、国家刑罰権の行使である刑事裁判制度と直接の関係はなく、刑事裁判の結果をまつて発動しなければならない性質のものではない。

懲戒処分は、制度上公社法三三条および就業規則の懲戒条項に該当する事由がある場合には、刑事処分の有無、刑事裁判確定、未確定に関係なく、職員の非違行為が明らかになればいつでも随時に行ないうるものであり、刑事処分とは全く異質のものである。

もちろん、就業規則五九条一六号「刑事事件に関し有罪の確定判決があつたとき」により懲戒する場合には、刑事裁判によつて有罪判決が確定しなければ懲戒の対象となしえないことは当然であるが本件の場合、債権者に対する懲戒は就業規則五九条七号に該当するとしてなされたものであり、同号は「職員として品位を傷つけ、または信用を失うような非行があつたとき」と規定し(同じく二〇号は「その他著しく不都合な行為があつたとき」と規定し)刑事裁判の確定を前提としていない。

また、ここにいう「非行」には犯罪に問われる行為が含まれることは当然である。そしてこの非行の存否、情状等は公社が刑事裁判の結果に関係なく独自に認定しうるのであつて、右非行の認定にあたり、いかなる調査方法を用い、あるいは資料によるかは公社の裁量に委ねられており、確定判決以外の資料を用い得ないとか、刑事裁判に匹敵すべき厳格な認定手段、方法によらなければならないと解すべき何の根拠もないのである。

従つて、また当該非行が犯罪行為として起訴されている場合でも就業規則五九条一六号に該当する以前に公社独自の立場から当該非行を認定し、同条の他の号に該当するとして懲戒することはもとより可能である。

(二) 刑事休職と懲戒処分について

公社の刑事休職制度は、公社法三二条一項第二号、就業規則五二条一項第二号および休職の発令時期等に関する協約一条一項第四号により規定されており、この刑事休職は、起訴された者の責任を追及することを本旨とするものではなく、公社のように公共性の極めて高い企業においては、起訴という手続きを介して犯罪の嫌疑をかけられている職員を、そのまま業務に従事させることは、公社の国民に対する信用の保持あるいは職場秩序の維持等のために好ましくないことから右犯罪事実の存在が相当程度客観的な資料をもつて肯定され得るにいたるまでの間、当該職員を一時的に当該職場から排除するためにとられる暫定的措置であり、従つて、そこには何ら制裁としての懲戒の要素は含まれていないし、公社の信用失墜や職場秩序のみだれの防止についての配慮も右の趣旨以上に出るものではないのである。なお、休職になつたものに対しては、休職期間中六割の賃金を支払うことを定めている。

一方、懲戒処分は広く公社秩序を維持確保し、もつて公社業務の円滑な運営を可能ならしめるため、非違を行なつた職員の非行を責め将来を戒めるとともに、他の職員に対してもその戒めとする一種の制裁であつて、公社法三三条にその根拠を有し、免職、停職、減給、戒告の四種に分かれる。

懲戒処分は、起訴の有無に拘わらず、職員が非違行為を行なつたときは、その事実を調査し当該非違行為が認められかつ懲戒の必要があると認められる場合にこれを行なうものであり、当該非違行為がたとえ裁判所に係属中の事案であつても、非違行為自体の認定が可能であり、かつ懲戒処分の必要があると認められるときは、右裁判の帰結とは関係なく、右懲戒権の発動としてこれをなし得るものであることはいうまでもない。

このように、起訴のみを要件とする刑事休職と非違行為の認定を要件とする懲戒処分は、まつたくその目的性格を異にするものであり、たとえ職員が刑事休職中であつても、当該公訴事実につき、その存在が認定でき、その内容から懲戒処分に該当すると判断される場合には、当然に懲戒処分を行なうことができるものである。

五 結論

本件懲戒免職処分の正当性については以上明らかにしたとおりであり、債権者はその被保全権利を欠くものといわなければならないが、さらに保全の必要性においてもこれを欠如するものであり、本件申請は却下を免れない。

すなわち、債権者は、本件懲戒免職処分以来申請の理由第七項記載の仮処分決定により債務者から総額一、五九〇、四四八円の支払いを得ていたものであるが、この間すでに二年五ヵ月余を経過し債権者はその健康な肉体と労働意思とによつて、たとえ臨時的職業によろうとも自己の生活を維持するに足る生活基盤を設定し得たはずのものであり、無為徒食を好む等特段の事情ない限り現に稼働して生計をたてているものと推認するのが相当であり、右仮処分申請当時とはその事情を全く異にしているものというべきである。加えて債権者において右仮処分に対する異議事件の口頭弁論期日を懈怠し自ら擬制取下げに至らしめたことをもあわせ考えれば債権者にはその主張のごとき保全の必要性は全く存しないものといわざるを得ない。

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